中期経営計画とは、経営理念や経営戦略を具体的な計画としてまとめた3~5年の計画のことであり、会社の成長には欠かせないものです。その意義やメリットを理解していても、計画作成のための知識やノウハウもなく、なかなか作成に踏み出せない経営者は多いと思います。
本記事では、これまで経営計画を作ったことがない経営者の皆さまに、テンプレートを活用した中期経営計画の作り方を簡単に解説いたします。
目次
1.作成の手順
まず初めに、中期経営計画を作成する手順を整理いたします。
①経営理念の作成
②経営環境の分析
③経営戦略の立案
④中期経営目標の決定
⑤中期の数値計画立案
⑥短期の数値計画立案
⑦行動計画の作成
基本的には上記の手順どおりの順番で進めることをお勧めしますが、並行してすすめることもできますし、作成をすすめるなかで前の手順に立ち戻ることもございますので、柔軟に進めていけば良いです。それではさっそく手順にしたがって解説して参ります。
2.経営理念の作成
まずは経営計画の大黒柱ともいえる経営理念を定めます。経営理念は、一般的にミッション・ビジョン・バリューの3つの要素から構成されます。
ミッション・・・会社の存在する目的、果たすべき使命、存在意義
ビジョン・・・目指すべき将来の理想像、なりたい姿
バリュー・・・会社が大切にする価値観、行動指針
しかし、初めて経営理念を作るという場合には、これらの要素にこだわる必要はありません。まずは社長自身の想いを一つのシンプルな文章にまとめ、経営理念として作成してみましょう。このときに注意することは、社長自身が実現したいことだけではなく、社員の幸福や社会への貢献をきちんと考慮することです。
例えば、以下のような具合です。
『私たちは、建設の技術をもって都市の発展に貢献し、組織と社員の幸福を追求します』
『県南エリアで顧客満足度ナンバーワン工務店を目指します』
『いつまでも家族が笑顔でいられる家づくりを約束します』
このように、複数のアイディアを考え、取捨選択したり、組み合わせたりして、最終的に一つに絞り込んで経営理念として定めれば良いのです。もし良い案が複数あり、一つに絞り込めないのであれば、ミッション・ビジョン・バリューの3つの要素にあてはめて、複数案を採用することもできます。
次のようなことを思い浮かべれば、自ずと考えがまとまるでしょう。
①自分がこの会社でやれること、やりたいこと
②貢献したいコミュニティ、地域
③将来実現したい自分のありかた、会社あるいは事業のありかた、コミュニティのありかた
3.経営環境・経営資源
経営計画を策定するにあたっては、まず自社の現状を把握しなければなりません。現状を把握すれば、経営理念を実現するにあたって、なすべきことが見えてきます。その代表的な手法として、SWOT分析と3C分析をおすすめいたします。
SWOT分析は、内部環境として自社の強み(S)と弱み(W)、外部環境としての市場の機会(O)と脅威(T)の4つの切り口にて、自社の現状を把握する手法です。経営資源の乏しい中小企業にとって、SWOT分析のポイントは、強みと機会を重点的に検討することです。
実は、ほとんどの会社は自社の強みをきちんと認識していませんが、ここに大きなビジネスチャンスが眠っていますので、しっかり分析しましょう。
3C分析は、自社(Company)・顧客(Customer)・競合他社(Competiter)の3つの切り口で自社をとりまく環境を分析する手法です。
まず、だれが顧客か、競合他社はどこか、自社の強みと弱みは何か、を分析します。次に、顧客のニーズは何か、自社が顧客にどのような便益(Benefit)を与えられるか、他社に対してどのような差別化が図れるか、を分析します。
いずれの分析についても、自社の思い込みではなく、なるべく客観的に、例えばお客様目線や競合他社目線で自社を分析することが重要です。
他にも経営環境分析手法はいろいろありますが、ひとまず上記2つの分析手法を採用し、じっくり考えてみましょう。なお、これらの分析は経営者一人ではなく、社員も巻き込んだ社内ワークショップなどで、全社で検討するのも良いでしょう。
4.経営戦略の策定
経営環境分析が済めば、自社のとりうる戦略が見えてくるはずです。まず考慮しなければいけないことは、自社には経営資源(ヒト・モノ・カネ)が限られているということです。
そのため、経営環境分析によって明らかになった、自社の強みと機会が合致する分野、顧客のニーズに対応した自社が提供しうる便益、他社と比較して差別化ができる要素、これらに限られた経営資源を投入することが、自社のとりうる戦略ということになるのです。
経営資源が限られている以上、選択と集中が重要になってきます。
ここで注意すべきポイントは、戦略は単なる過去の延長上で考えてはいけない、ということです。仮に、現時点において、自社の強みを活かして他社と差別化をし成長できていたとしても、市場環境は変化し続けており、競合他社もひとところにとどまっているわけではありません。
外部環境の変化に追い付き、追い抜いてこそ、会社の成長があるわけですから、これまでとってきた経営戦略を再点検し、必要に応じて見直すことが必要なのです。
ただし、突拍子もないことをやるということではありません。既存のもの同士を新しい組み合わせとしてかけ合わせるだけでも、新規性や革新性を生み出せるのです。また、経営戦略は経営理念に背くものであってはいけないことは、言わずもがなでしょう。
もし納得のいく戦略がたてられなければ、経営環境分析の手順にもどり、将来の市場動向の予測が十分か、自社の強みや差別化のポイントに見落としがないかなど、再検討すると良いでしょう。
5.中期経営目標の立案
戦略が定まったら、3年から5年先の中期経営目標を立案しましょう。
目標は数値で示す必要がありますが、代表的なものとして以下の要素が良いでしょう。
・売上高(必須)
・経常利益(必須)
・市場シェア
・店舗数や従業員数
ここで掲げる目標値に制約はありません。実現可能性とのすり合わせは、数値計画立案の段階で行うことになりますので、ひとまず経営者自身がこれと思った目標を掲げれば良いのです。むしろ過去の引き延ばしに過ぎない目標では、経営計画を作成する意義が損なわれかねません。
なお、掲げる目標は必ずしも高いものである必要はありません。極端なことを言えば、売上と利益が減少しても、生産性が向上するのであれば、それも立派な目標です。
注意すべきポイントは、従業員の納得性が高く、またモチベーションアップにつながる目標とすることです。絵に描いた餅に終わる目標は、まさにここが欠けていると言えます。会社経営は従業員の貢献があってこそ成り立つものですので、従業員が達成に対する意欲がもてるような目標であることが必要なのです。
6.中期の数値計画
中期目標の設定まで済んだら、いよいよ数値計画に着手します。作成の手順に決まりはありませんが、次のような流れで進めると良いでしょう。ここでは、増収増益を目標とした5か年計画を例に、テンプレートを活用した作成方法を紹介します。
(1)売上高と売上原価
計画第5期の売上高と売上原価をカテゴリーごとに設定計画第1期から4期までは、段階的に変動させて入力。新規出店や新商品投入などを根拠とするならば、その時期にあわせて変動させましょう。
ここで重要なのは、その売上高を計上する根拠をイメージすること。売上高は単価×客数×リピート率などのように分解できますから、これらの要素を変動させる施策が根拠となってきます。次項以降の経費計画はこれらの要素を意識することが重要です。
(2)人件費
売上高の増加のために必要な人員を検討し、増員にあわせて人件費を変動させましょう。あわせて採用コストや教育コストも盛り込むと良いでしょう。ここでは、いったん賞与は考慮にいれず、最後に利益と調整して設定すれば良いでしょう。
(3)新商品開発への投資や設備投資
売上高の増加のために必要な項目を検討し、試験研究費、広告宣伝費などを盛り込みましょう。新規出店やオフィス拡張などの場合は、敷金や礼金、内装工事費、設備購入費などの総額を概算で算出してください。なおこれらは固定資産としての計上になりますので損益計画には計上不要です。
(4)家賃、設備費用・減価償却費
もし新規出店やオフィス移転などがあった場合は、支払家賃や水道光熱費などの見直しをしましょう。
(5)その他の経費
前期までの実績をベースにしながら、売上に比例するもの、人員に比例するもの、営業拠点数に比例するもの、固定的なもの、スポットでの支出などに分類し、見込み金額を入力してみましょう。
(6)資金繰り
前項までで、いったんは暫定の損益計画がまとまりますので、ここから資金計画を検討します。事業の拡大にともなって資金の確保が重要になってきます。設備投資や新商品開発などの施策を行う場合にはなおさら資金調達が重要です。
暫定の損益計画もとに簡易的にキャッシュフローに引き直したうえで、借入金の返済計画を入力し、そこに設備投資等の支出を計上します。新たに金融機関からの融資を受ける場合には、借入額による収入を計上し、以後の返済計画を入力しましょう。
これによって5か年の資金の動きが把握できることになり、また、社に必要な利益も把握することができます。資金がショートする場合には、前のステップに立ち戻り、売上および利益の上乗せ、経費の削減を検討しましょう。
(7)全体のバランスをチェック
利益率、成長率、一人当たり売上、資金繰りなどで異常がないかチェックし、上記の各項目の見直しを行いましょう。場合によっては、中期経営目標の微修正も必要な場合もあります。繰り返しになりますが、完成した計画は、過去の延長にすぎない保守的な計画であっても、実現可能性が乏しい計画であっても、社員のモチベーションはあがらず、絵に描いた餅に終わりますので、ご注意ください。
7.単年度数値計画および行動計画表
中期計画が策定できれば、計画第一期の数値も決まったということですので、今度はこれを単年度の数値計画として、より具体化していきます。
第一期の年度計画を月割りに分解したうえで季節変動を加味して計上すれば良いです。人員の増員や設備投資がある場合は、見込まれる月に計上しましょう。単年度計画は毎月の予実管理で使いますから、慎重に調整を行うのが良いでしょう。
単年度数値計画ができたら、これを具体的に行動レベルに落とし込むための計画表を作成しましょう。主には売上増加の施策についての行動計画になってくるでしょう。
前述したように売上高は「単価×客数×リピート率」などのように分解されますので、あらかじめ定められた戦略に沿ったうえで、これらの要素をあげるための施策を列挙し、具体的行動を計画表に記載していきましょう。
ここでは、5W1Hを明確に定めることがポイントになります。
8.中期経営計画を作る際に注意すべき3つのこと
以上で中期経営計画の策定が完了します。経営計画の作成は決して簡単ではありませんが、テンプレートを使って上記の手順のとおり進めれば、作成のハードルは大きく下がるはずです。是非とも計画作成に着手頂きたいと思いますが、ここで中期経営計画を作成するうえでの注意点を確認しておきましょう
(1)完璧に仕上げることを目指さない
最初はボリュームも少なくても構いません。まずは完成させることが重要なのです。中期経営計画は毎期の見直しが重要ですが、そのたび徐々に精度が高まり、やがて自社の独自性も出てくるようになります。
(2)矛盾点はないかチェックする
経営計画の作成は、見直しや修正をしながら、上記手順を行ったり来たりしつつ進めていきます。
例えば人員を増員したら、人件費を上乗せしなければいけませんし、また人員増にともなってオフィスの拡張が必要となるなら、設備投資も必要となります。
また、売上を拡大するために必要な施策を計画するのであれば、広告宣伝費など必要となる費用を盛り込まなければなりませんし、その施策は経営理念から外れるものであってはいけません。
中期経営計画を通して、整合性や合理性が保たれているか、きちんとチェックしましょう。それによって、計画の実現可能性が高まるのです。
(3)作成した計画の活用を意識したつくりにする
中期経営計画は「経営計画書」などのような体裁にまとめ、従業員や金融機関など利害関係者に共有してこそ意義があります。
利害関係者に共有することを前提に、従業員のモチベーションの向上、取引先や金融機関の信頼獲得などを意識した内容とするのが望ましいでしょう。
そして、経営計画発表会や毎月の会議など、計画を周知し実行に移すための仕組みとして組み込むことも重要です。
テンプレートはコチラ
まとめ
いかがでしたでしょうか。中期経営計画の作成は会社の未来を定めることですから、決して簡単なことではありません。しかし、テンプレートを活用して手順通りにすすめれば、初めての方でも会社の成長に必ず役立つ中期経営計画を作ることができます。
私たちの会社も、最初に作成した計画はテンプレートをもとに他社事例を参考にした簡素なものから始めました。その後、毎期見直しながら内容を充実させていき、今では完全にオリジナルの経営計画書を作成できるようになりました。
大事なことは、最初の一歩を踏み出すことです。中期経営計画は会社の経営に必ず役立ちますので、是非チャレンジしてみましょう。