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2022.06.01
遺言書と遺留分の関係を解説!どちらが優先される?
国税庁が公表している資料によれば、お亡くなりになられた方(「被相続人」といいます)は毎年約130~160万人おり、そのうち相続税の申告が必要な被相続⼈は約13~15万人いるようです。
また、その15万人に対しての相続人の数は約29~33万人いるとのことで、1人分の相続財産を2人以上の相続人で分け合うことになることが多いということが伺えます。
相続人が2人以上いる際に、特定の財産を特定の人に相続させたいためによく用いられる手段として「遺言書」があります。
ただし、一定の相続人には「遺留分」があるため、その点も踏まえた遺言書の内容にしないと、せっかくの被相続人の遺志がないがしろにされてしまう可能性があります。
今回は、実際にあった相談事例も踏まえて遺言と遺留分について解説していきます。
解説にあたり、まずは遺言書と遺留分がどういったものなのかを説明していきます。
「遺言書」とは民法960条~1027条で規定されている制度で、誰にどの財産をどれだけ相続させたいかを指定し、その指定に法的効力を持たせることで、ご自身の財産をご家族へ確実に託し、相続をめぐる紛争を防止するために作成する書類です。法律に則って作成された遺言書による遺産分割は、法定相続分による遺産分割よりも優先されることになります。
遺言書の作成方式は現在下記の3つがあります。
※参照:人事院 https://www.jinji.go.jp/seisaku/kyuyoshogaisekkei/top/isan-sozoku1-1.html
日本公証人連合会によると、現在の公正証書遺言の登録数は毎年約10~12万件あります。
ちなみにですが、似たような言葉で「遺書」というものがありますが、こちらは自分の気持ちなどを伝える私的な文書であり、「遺言書」のような法的な効力はありません。
また、上記の要件を満たしていない遺言書も、同様に法的な効力を持たなくなってしまうので作成には注意が必要です。
「遺留分」とは、民法1412条~1419条で規定されている制度のことで、被相続人の子や配偶者など一定の相続人に保証された最低限取り分が設定されており、実際に相続する財産がその最低限を下回る時に代償として金銭を請求することができます。
この請求できる権利のことを「遺留分侵害額請求権」と言います。
ただし、あくまで請求できる権利があるというだけですので、相続財産がその最低額を下回った相続人(=遺留分権利者)が遺言内容に不満をもって訴えを起こすといった行動を取らなかった場合は、通常通り遺言で決められた通りの相続となります。
ちなみにですが、遺留分権利者が、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から一年間行使しないとき、又は相続開始の時から十年を経過したときには遺留分侵害額請求権が消滅します。
遺言書も遺留分もどちらも民法で規定されているものになりますが、例えば、相続人が子ども2人だけの時に片一方に全ての財産を相続させる内容の遺言書が出てきた場合、遺言書と遺留分の果たしてどちらの内容が優先されるのでしょうか。
民法では、遺留分の対象になる財産として以下を掲げています。
相続財産(相続開始の時の財産の価額-債務の全額を控除した額)
遺贈(遺言による贈与)
相続開始前の一年間に実施された贈与財産
相続開始前の十年間に相続人に婚姻若しくは養子縁組のため又は生計の資本として実施された贈与財産
すなわち、遺言書に書かれた内容も遺留分の対象になるわけです。
そのため、片一方の子どもに全資産を渡す内容の遺言書を書いたとしても、資産をもらえなかったもう一方の子どもは、全資産をもらった子どもに対して遺留分侵害額を請求することが可能です。
一定の相続人に保証された最低限取り分である遺留分ですが、その「最低限」の割合は相続人の続柄によって変わってきます。
一覧は下記の通りとなります。
※父母ともに健在であったり、子どもが複数いる場合は遺留分を人数分で割ります。
実は、相続人の内「兄弟姉妹」の続柄の方には遺留分がありません。
民法の条文でも一番始めに「兄弟姉妹以外の相続人は」と明確に記載されています。
これは、兄弟姉妹は被相続人との関係が遠く、一般的に被相続人の財産をあてにしなくても生活に困らないためだと考えられています。
とはいえ、遺言書は上図の注意点・特徴にもあったように、基本的に相続が発生するまでは相続人が内容を確認することは出来ないようになっています。
そのため、いざ相続が発生して蓋を開けてみたら遺留分を侵害している遺言書になっていたという可能性も十分にありえます。
そのような場合どうすればよいのでしょうか。
実は、遺言書の内容が遺留分を侵害していたとしても遺言書そのものが無効になるわけではありません。
実際の手続きとしては、一旦遺言書の通りに相続財産を分割したうえで、相続財産を受け取った人が各々の割合に応じて遺留分権利者に金銭を支払います。
また、遺言書にて遺留分の支払を誰が行うのかを指定することも可能なため、もしそのような記載があった場合には遺言書に準じて対応していくことになります。
相談内容といたしましては、以下となります。
長女と長男がいるのだが、会社を継いでくれたこともあり、長男には長女よりも
多くの資産を相続させる内容の遺言を残そうと思うのだけれども大丈夫だろうか。
というものでした。
確かに、遺言(書)はご自身の最後の意思を残す意味としては非常に効果的な手段です。
ただし、ここで注意しなくてはならないのは、長女は遺留分の侵害額に相当する金銭を長男に請求できるということになります。
今回の場合、長女が請求可能な遺留分の割合は
相続財産の1/2 ÷ 相続人2人 = 遺留分1/4
となります。
そのため、相続財産の3/4以上を長男の方に渡す旨の遺言書を作成したとしても、遺留分を侵害していると長女が気付いたタイミングで侵害請求をしてくる可能性が発生してしまいます。
このような話をすると、遺言書を作成しても意味がないのでは?とお客様から言われることがありますが、必ずしもそうとは限りません。
遺言書を作成するということ自体は、ご自身の大切な資産を誰に、どのように相続させたいかなどの意思を示し、相続を「争続」にしないためにも有効な手段です。
重要なのは、相続人の遺留分を侵害しない、もしくは遺留分について対策をした遺言書を作成することです。
また、遺言書には「付言事項」と呼ばれる項目があり、相続人へのメッセージのようなものを記載することができます。
「付言事項」に、長男は後継者であるため、経営を継続するために資金は必要である。
そのため長男には〇〇万円を相続させたのだ。などメッセージを記載して、相続人それぞれへの想いを文章で伝えることが可能です。
遺言書は、残された親族に『争族』をさせないように事前に防止する効果があります。
遺言書の作成および保管制度についても年々改正されて、利用しやすくなっています。
いずれにしても、遺言書を作成するためにはまず、今自分の財産がどれくらいあるのか、その財産に対して相続税がどれくらいかかるのか、そしてその財産を誰に渡したいのかを全て洗い出す必要があります。
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