• 2024.06.12

家族信託とは?手続き方法やメリット・デメリットについて徹底解説!

 

今回は、テレビや新聞などでもよく取り上げられております「家族信託」について取り上げたいと思います。以前、当事務所にて家族信託についてのセミナーを開催いたしました際にも、たくさんの方にご参加いただき、相続対策の一つの方法としての関心の高さがうかがえました。

このような高齢化社会における、財産管理の方法の一つとして家族信託という方法が近年注目されるようになりました。
今回はそんな家族信託について詳しく解説します。

 

家族信託とは

 

家族信託とは「家族のための民事信託」のことで、簡単にいうと、目的(老後の生活資金・介護に必要な費用など)を決めて、不動産やお金など、お持ちの資産を信頼する家族に託し資産管理を代わりに行ってもらうという制度です。

家族信託を組成する際には、「何を信託財産に設定するのか」と、「委託者」「受託者」「受益者」の三者の設定が必要になります。
それぞれの役割は以下の通りです。

・「委託者」・・・所有している財産を信託する人を指します。
・「受託者」・・・財産の管理や処分を委託者に代わって実行する人のことを指します。
・「受益者」・・・受託者が行った財産の管理や処分によって得た利益を受取る人(受益権を有する人)のことを指します。

家族信託の場合、受託者には委託者の配偶者や子どもがなることが多いです。
信託を組成すると、財産は「信託財産」として委託者から受託者へ移転します。
委託者にとっては正に受託者のことを「信じて託す」ことになるわけです。

 

家族信託が注目されている背景

 

家族信託の利用件数は年々増加しており、法務省の統計によれば、2022年の利用件数は17,572件あり、これは2021年と比較して約37%も増加しているそうです。

では、なぜ家族信託という制度が注目されて来ているのでしょうか。

日本は超高齢社会の時代を迎えました。内閣府平成28年版高齢社会白書によりますと、65歳以上の高齢者の認知症患者数が、2012年は462万人と7人に1人の割合であったのが2020年には631万人おり、2025年には約700万人で5人に1人と見込まれているそうです。
今後も認知症など判断能力が難しくなる高齢者が増え続けることが予想され、相続対策を考える際には、認知症もしくはそれと同レベルの正常な判断能力を失うというリスクを考えていかなければなりません。

実際に認知症などになった場合、銀行の口座などは凍結されてしまい、子どもでも親のお金を下ろせなくなります。そうすると、親の介護に手をあげた子どもが金銭的な負担も強いられることにつながります。
従来からそういう状況になってしまった場合の対応策として成年後見制度というものがあります。
しかし、この制度には難点が多くあり、2020年時点の利用者数は約24万人と認知症患者全体の約3.8%程度しか利用していないという状況があります。

そんな中で、親が認知症になる前段階で私的契約で成立させることができ、その自由度が高く使い勝手の良い家族信託という制度が2017年頃から知られてきており、特に高齢者を支える家族からの期待が高まっているのです。

 

家族信託のメリット

 

このように注目が高まっている家族信託ですが、実際に家族信託を組成することでどのような効果が期待できるのでしょうか。
大きく上げられるのは以下の3点になります。

 

認知症対策
信託財産は、委託者が認知症などで判断能力を失った場合でも凍結されることはないため、受託者が資産を適切に管理・運用でき、委託者の意思を反映した資産運用が可能です。

 

財産管理の効率化
家族信託では、成年後見制度とは違い信託財産の維持・管理のみならず運用・処分も可能なので、財産を増やすための積極的な投資活動も行うことが可能です。

 

「争族」対策
家族信託には契約に遺言としての機能を付随させた「遺言代用型信託」や、受益者が死亡した際に第2受益者、第3受益者へと予め定めた者に順次承継させる「受益者連続型信託」といったように信託財産の承継先を指定することが可能です。
これらの信託財産は遺産分割協議の対象から外れるため、委託者の希望に寄り添った相続が可能になります(ただし、遺留分を請求することは可能なため注意が必要です)。

 

倒産隔離機能
先に、財産が委託者➡受託者に移転すると述べましたが、信託財産自体は「だれのものでもない独立した財産」として扱われます。
そのため、将来委託者または受託者が破産したり、信託財産に関係のない債務を負ったりしたとしても、信託財産は差押えの対象から免れることが出来ます(ただし、受益者が破産してしまった場合には、「受益権」が差押えの対象になるため注意が必要です)。

 

家族信託のデメリット・注意点

 

ここまで家族信託を組成した場合のメリットや効果をお伝えしましたが、一方で信託を組成する際に気を付けなければいけないポイントとして大きく3点あります。

 

受益者を誰に設定するのかによって税負担が発生することがある
「委託者」と「受益者」が同一人物になる信託を「自益信託」と言います。
この場合、「委託者」は自分の財産を他人に運用してもらい、その運用益を自分で得る形になるため特に問題は起こりません。

一方で、「委託者」以外の方が「受益者」となる信託を「他益信託」と言います。
この場合「委託者」の財産を運用して得た利益を他人が享受することになりますので、財産が「委託者」➡「受益者」に移転したと見なされて課税の対象になります。
何の税金が課せられるのかは「「委託者」⇦「受益者」への適正な価格の授受」の有無で変わってきます。
・適正な価格の授受が有る・・・「委託者」側に譲渡所得税が課せられる
・適正な価格の授受が無い・・・「受益者」側に贈与税が課せられる

また、「受託者」と「受益者」が同一人物の信託そのものは可能ではありますが、その状態が1年以上継続してしまうと強制的に信託が終了になってしまいますので、相続が発生した際などでは注意が必要です。

 

相続税が免除されるわけではない
前述した「財産管理の効率化」の過程で相続対策につながる運用などを実施することは可能ですが、受益者が亡くなって相続が発生した場合、信託財産又は受益権は税務上「相続財産」になるため、相続税の支払が発生する可能性があります。

 

信託財産以外は通常の財産として相続手続きが必要
信託財産として設定しなかった財産は委託者自身の財産のままのため、認知症などで判断能力がなくなってしまった場合は従来通り資産凍結の対象になります。また、相続が発生した場合には他に遺言等がない限りは遺産分割協議の手続きが必要になります。

 

信託では身上監護の設定まではできない
上述してきた通り、家族信託は委託者の「財産」に関して取り決める仕組みのため、医療費や介護施設の利用料などの支払については規定することが出来ます。一方で、受託者は法定代理人ではないため、入院手続きや家賃の更新などといった、委託者の生活・療養・介護などの法律行為を代行すること(身上監護)については権限がありません。
そのため、信託の目的達成のために必要な行為を実行するためには、家族信託と併用して「成年後見制度(任意後見制度)」を活用することも検討が必要になります。

 

家族信託の手続き方法

 

最後に、家族信託の手続きの流れについて説明していきます。

 

家族信託の目的と内容を家族間で話し合う
家族信託で最も重要なことは、「信じて託す」ために
・なぜ(信託する目的の決定)
・どの財産を(信託財産の選定)
・誰に(受託者の任命)
・いつまで(信託終了の事由及び残余財産の帰属先の決定)
など、信託の内容を家族で話し合うことです。

 

信託契約を締結する
内容が固まったら、「信託契約書」を作ります。
内容に抜け漏れ等があると希望した通りの信託が実現できなくなってしまう可能性があるため、公証役場にて公証人と相談の上「公正証書」として締結するのがお勧めです。

 

家族信託用の口座を開設する
受託者には「分別管理義務」という信託法のルールに基づいて、委託者から託された信託財産を、受託者の固有財産とは分別して管理する義務があります。
そのため、家族信託用の「信託口口座」の開設が必要になります。

また、受託者には「忠実義務」や「帳簿等の作成・報告・保存義務」などの義務があり、それに基づき受益者のために忠実に信託事務を行い、信託財産に関する支出や収入の記録や帳簿の作成も行う必要があります。

 

信託不動産の信託登記を行う
信託財産に不動産が含まれている場合、信託財産であることを示すために、「信託登記」という特別な登記手続きが必要になります。

 

ここまで実施してようやく信託がスタートです。
家族信託は5~10年続くと言われています。それどころか信託の内容によっては2世代、3世代に続く可能性もあります。
将来にわたって信託を承継していくための仕組みや、長期継続的にサポートしてもらえる専門家の検討なども同時に行っていくことが必要です。

 

まとめ

 

家族信託は特に決まった設定があるわけではありません。
信託の方法は様々ですので、オーダーメイドな設計が可能です。
そのためどうしても専門家の力は必要となりますが、よくある“争族”とならないためにも、判断能力が衰えてしまう前の相続対策の一つとして是非ご検討されてはいかがでしょうか。

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