従業員の資格取得費用等を負担した場合の取り扱い
2022.06.01
役員報酬を損金に算入するためのルールを徹底解説!
法人の役員に支払う役員報酬。ルールに従って支給した場合のみ、法人税法上の損金に算入することができます。
役員報酬は、通常の従業員の給与とは異なり、独自のルールや仕組みで決められます。これは、役員自身が自分の報酬額を定めることができる場合が多いためです。もし、役員報酬に対して無制限に損金に算入できると認めてしまうと、問題が生じる可能性があります。では、そのルールとはどんなものかご存知でしょうか。
今回は、役員報酬を損金に算入するためのルールや注意点を解説します。
まず、役員報酬の改定等を行う場合には、株主総会等での決議が必要になります。
さらに、法人税法上の損金に算入できる役員報酬は以下の3つに限られており、一般的に中小企業では、⑴定期同額給与と⑵事前確定届出給与として、支給されることが多いです。
⑴定期同額給与
⑵事前確定届出給与
⑶業績連動給与
なお、上記の⑴~⑶のいずれかに当てはまる場合でも、支給額のうち「不相当に高額」な部分の金額は損金に算入することができないとされます。
定期同額給与とは、事業年度中の毎月の役員報酬の支給額が同額であるものを指します。なお、事業年度中に支給額が改訂された場合でも、改定前後の各期間でそれぞれ支給額が同額であれば、定期同額給与となります。
また、定期同額給与として支給する役員報酬の支給額を改定する場合には、以下の①~③のうち、いずれかに該当していることが求められます。
事業年度開始日から3ヶ月以内に行われる株主総会等の決議によって改定する場合は、定期同額給与の要件に当てはまります。
法人の役員の職制上の地位の変更、その役員の職務の内容の重大な変更などのやむを得ない事情がある場合の改定を指します。
その法人の経営状況が著しく悪化したことその他これに類する理由による改定を指します。単に経営成績が悪化したことのみでは「業績悪化改定事由」には当てはまらないとされ、会社の経営上、役員給与を減額せざるを得ない客観的な事情があるかどうかにより判定することとされています。なお、業績悪化改定事由の例示として、国税庁の「役員給与に関するQ&A」では以下の3点を挙げています。
【参考】(抜粋)
・ 株主との関係上、業績や財務状況の悪化についての役員としての経営上の責任から役員給与の額を減額せざるを得ない場合
・取引銀行との間で行われる借入金返済のリスケジュールの協議において、役員給与の額を減額せざるを得ない場合
・ 業績や財務状況又は資金繰りが悪化したため、取引先等の利害関係者からの信用を維持・確保する必要性から、経営状況の改善を図るための計画が策定され、これに役員給与の額の減額が盛り込まれた場合
なお、業績悪化改定事由については、以前弊社のブログでも特集しておりますので、ご参照ください。業績悪化改定事由による役員報酬の減額(弊社ブログ)
事前確定届出給与とは、役員賞与など、予め決めた時期に、確定した金額を支給することを定めて、それに従って支給する給与をいいます。事前確定届出給与を法人税法上の損金に算入するためには、事前に株主総会等の決議を行い、また、「事前確定届出給与の届出」を税務署に提出する必要があります。
この「事前確定届出給与の届出」の提出期限は、以下のうち、いずれか早い日とされています。
①事前確定届出給与の株主総会決議をした日または職務の執行を開始する日から1ヶ月後
②事業年度開始の日から4ヶ月後
この提出期限までに届出を提出していない場合や、賞与の支給時期・金額が届出書と異なる内容の場合は、全額が損金として認められないため、注意が必要です。
業績連動給与とは、法人の利益の状況を表す指標や、株式の市場価格の状況を表す指標等、業績を基に給与額を連動させる制度です。
元々役員給与の損金算入規制は、役員賞与を利益の中から支払うべきものとしていたため、業績連動型の役員報酬についても、過去税制改正が行われるまでは、損金算入が認められていませんでした。そのため、他の報酬の中でも算定方法の開示をする必要があるといった特に厳しい条件が設定されており、事務手続きの負担も相対的に大きくなります。加えて、同族会社では認められていないため、対応のハードルが高く中小企業への導入が進んでいないのが現状です。
役員報酬を損金算入するためには、法人税法の規定に従わなければならず、役員報酬という括りであればどんな種類の報酬でも経費として扱える訳ではありません。具体的にどのような種類の報酬であれば損金参入することが可能なのでしょうか。上述した「1.定期同額給与」「2.事前確定届出給与」「3.業績連動給与」以外に損金算入可能な報酬についてご説明します。
・定期給与以外の給与等
・役員退職金
定期給与以外の給与等とは、以下の要件を満たす役員報酬のことを指し、報酬額の適正部分は損金算入することができますが、過大部分は損金不算入となるため経費として扱うことができません。
・非同族会社(※)が支給する役員報酬で、定期的に同額支給することのない給与であること
・一定の特定譲渡制限付株式などによる給与
・一定の新株予約権による給与
※同族会社とは、株主とその同族関係者(株主と特殊な関係にある個人や法人)をグループとして、上位3グループが保有する株式の合計額及び議決権の数が、その会社の発行済株式全体の50%を超える会社のことを指します。(非同族会社は、同族会社以外を指します。)
役員退職金は、不当に高額すぎる報酬額を設定しないことを条件に損金算入することが可能です。
※平成29年10月1日以後に支給される、利益その他の指標に基づいて算定される役員退職金については、利益連動給与の損金算入要件を満たさないものについては全額損金不算入となります。
この役員退職金の高額すぎるか否かは、
・退職の事情
・在籍年数
・同業種または同規模の他社の役員退職金
などを参考に判定します。
また、役員退職金が損金算入される時期は、税法上株主総会の決議などでその退職金の額が決まった日とされています。
役員報酬はルールに従って支給することが重要ですが、その支給額が高額である場合も多いため、会社の経営成績や資金繰り、納税額、また、受給者である役員自身の所得や納税額など、様々な影響があります。そのため、早めのタイミングで検討し、正しい情報を元に手続きを行うことが重要になります。役員報酬の改定等を検討されている場合は、専門家である税理士に相談されることをおすすめいたします。